【宮城】福祉に向き合う在日ムスリム、弱者救済という「ジハード」　被災者、ホームレスを支援　「神の命令ですから、怖くありません」

炊き出しのカレーを準備するハールーン・クレイシさん（中央）ら＝東京都豊島区の東池袋中央公園で

　信仰に支えられた人々の社会活動が広がり、福祉などの課題に向き合う宗教者が増えた。中でも目立つ存在が、在日外国人を中心としたムスリム（イスラム教徒）のグループだ。宗教の違いを超えて東日本大震災の被災者やホームレスを支援するなど、社会的弱者に手を差し伸べ続ける。その源泉は教えの中にある。

■炊き出し、協働

　東京都豊島区の一角に、円屋根と白い外観が特徴的な小さなモスクがある。1999年に完成した「マスジド大塚」だ。マンションや飲食店が混在する中にひっそりと立つ。上層階の小さなスペースに入ると、すさまじい熱気が押し寄せてきた。2人の男性が大量のカレーを作っている。礼拝の後、カレーは車で目的地の東池袋中央公園へ。

　この日は7月24日、東京五輪開会式の翌日。猛烈な暑さにもかかわらず、現地には長い行列ができていた。路上生活者（ホームレス）らを支援するNPO法人「TENOHASI（てのはし）」の炊き出し日で、マスジド大塚はカレーの提供などで協働している。

　在日ムスリムらの男女がカレー配膳の準備をする。幼い子どもの姿もあり、ボランティアにはムスリムではない日本人大学生も交じる。中心にいたのはハールーン・クレイシさん。マスジド大塚で事務局長を務める。「次の世代にはいい勉強になるでしょう。社会人になっても気持ちは忘れないはず」と期待する。

　1966年生まれ。大学留学のため91年、パキスタンから来日した。日本人の妻と4人の子どもがいる。話していると、携帯電話が何度も鳴る。用件は支援や生活相談などさまざま。ムスリムだけでなく、困窮した日本人から連絡もあるといい、貧者救済を奨励するイスラム教に基づき、できる限りの対応をする。モスク近くの公園でもホームレスに食事を提供しているという。

■震災きっかけ

　炊き出しのきっかけは東日本大震災だった。発生直後、教えに照らして考えた。「困っている人のために何かできないか」。すぐ行動に移し、翌日には支援物資を車に積んで被災地へ。物が行き渡っておらず、被災した女性が涙を流して受け取ったのが印象的だった。その後、マスジド大塚が現地入りしての被災地支援は100回以上に及ぶ。

　当初、おにぎりは自分たちで用意したが、手が足りない。モスクの近所の商店街で声を掛けると、喜んで手伝ってくれ、モスクの中で一緒に準備をしたという。過激派のテロ活動のため誤解されがちなイスラム教だが、大塚にやってきて以降、他のムスリムと共に地元の祭りに参加し、近所の人々と日常的な交流をしてきた。そうした行動が理解と協力の背景にあるようだ。

　震災翌日に現地入りしたハールーンさんも行く前は不安だった。状況が全く分からない。子どもは小さく、妻は心配している。そんな時に開いた聖典のコーランで、目に入った言葉が「ジハード」。「聖戦」と訳されるが、これは「神のための努力」の意味だとハールーンさんは強調する。

　「これが私にとっての『ジハード』だと理解した。神様の命令ですから、怖くはありません」。被災地に支援のため飛び込むのが「ジハード」。勇気を得た瞬間だった。

■理解高まれば

　震災後からハールーンさんらと協働するTENOHASI事務局長の清野賢司さんは当初、「炊き出しをしたいと言われて驚いた」と語る。ムスリムではなく、主な対象は孤立して路上生活状態にある日本人。ただ、彼らの貧者救済の精神を知り感動した。「お金も手間もかかるのに『機会を与えてくださってありがとう』と逆に礼を言われる。ありがたいですね」

　この日の炊き出しを受け取ったのは約400人。ハールーンさんは個人を中心に考える傾向が強まる日本に懸念も抱く。暗くなった公園で訴えた。「今日は若いボランティアがたくさんいてうれしいが、ホームレスについて知らない日本人は多い。もっと理解が高まればいいと思います」

毎日新聞 2021/8/28
https://mainichi.jp/articles/20210828/ddl/k04/040/035000c?inb=ra

中東の現状を見ると、完全な嘘であることがよくわかる。