米国の反ワクチン活動への対抗策

3月13～19日に最もツイート数が多かったのは、Lancet誌の論文「Confronting the evolution and expansion of anti-vaccine activism in the USA in the COVID-19 era」（COVID-19時代の米国における反ワクチン活動の進化と拡大への対応）で1559件だった。パンデミック期間中に、米国の反ワクチン活動はネットワーク化された運動に進展して大きな広がりを見せたため、公衆衛生対策上の脅威になる可能性がある。この論文では、米国を拠点とする反ワクチン活動家の最新の動向をまとめ、それに立ち向かうための戦略を提案している。

　パンデミック以前の反ワクチン活動は、健康への影響や安全性への懸念（例えば、ワクチンが自閉症を引き起こすという主張）や、予防接種による感染症に対する集団防衛の考え方は、個人の選択の自由を侵害するものだというイデオロギー的なものが中心で、時にロビー活動で政治家に働きかけたりしていた。

　その後、反ワクチン活動家のソーシャルメディア利用が活発になり、一部の州や地域にとどまらず、全米的にネットワーク化していく。反科学的なポピュリストの発言が広がるようになり、逆にワクチン政策に関わっている医師などの専門家は、SNSで根拠のない誹謗や中傷にさらされたり、時には暴力に巻き込まれる場合も出ててきた。こうした状況は、COVID-19のパンデミックにより、さらに加速することになる。

　反ワクチン活動家は、ソーシャルディスタンス、学校の閉鎖、ワクチンやマスクの義務化といったパンデミック対策に対する米国民の不満を利用し、公衆衛生介入に反対した。COVID-19ワクチンの接種が始まると、接種した女性は不妊になるなどとしたり、心筋炎のリスクを強調したり、さらには陰謀説を展開し、ワクチンの安全性と有効性に対する一般市民の信頼を損なうようなメッセージを次から次へと打ち出した。その上、有名人のインフルエンサーが誤解を広げる役割を果たした。

　反ワクチン活動家の後押しにより、テキサス州の議員たちは2021年の立法会期中に定期接種の学校要件を撤廃する法案を提出し、2022年の州議会の開始時には、カンザス州やオクラホマ州などでCOVID-19ワクチンの学校入学の要件を禁止する法案が提出された。これらはいずれも可決されていないが、反ワクチン活動は政治的にも無視できない影響力を行使するようになった。

　こうした問題に対して、論文では3つの対策を提案している。第1はワクチン関連情報を適切なタイミングで、適切な場所で、適切なメッセンジャーとともに一般市民に届けるネットワーク型コミュニティーの開発だ。これには米国の公衆衛生コミュニケーション・モデルのアプローチの転換が必要だが、実現すれば反ワクチン活動によって広められたメッセージを先取りしたり、打ち消すことができる。第2は、Virality Projectに見られるような学際的かつ分野横断的なコラボレーションだ。幅広い専門知識を効果的に活用して、反ワクチン活動家に対抗する。第3は、反ワクチン活動家のハラスメントに直面している専門家や医師を公的に支援するネットワークを活性化することだ。著者らは、反ワクチン活動のネットワーク化が進んだ以上、対応策にもネットワーク化された協調的なイニシアチブが必要だと指摘している。

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2023/03/29
日経メディカル
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/popular/202303/579053.html