中国軍進出に対応するため”一夜で修復可能な不沈空母”に…馬毛島の軍事要塞化　幻の計画書・内部資料入手

ここに「御説明資料」と銘打たれた一冊の資料がある。

表題に書かれているのは「馬毛島国策構想事業計画プラン」。資料作成者はかつての土地の所有者だった開発会社「タストン・エアポート」(以下、タストン)だ。

ページをめくると前段説明として島の面積や気候風土、そして成り立ちについて細かく記載されている。

関係者から入手した内部資料をさらに読み進めると、完成予想図という言葉とともにカラー写真で映し出された馬毛島の姿が現れる。先ほどの説明とは打って変わって、そこにあるのは核も搭載可能な長距離兵器「トマホーク」発射基地やロケットのイメージ写真、そして軍事要塞へと姿を変えた馬毛島の全容だった――。

鹿児島県南部に浮かぶ馬毛島。種子島からは沖合12キロの位置に浮かぶこの孤島が今、日本の国防を担う最重要地に位置付けられている。全国紙社会部記者が語る。

「念頭にあるのは中国の脅威、そして台湾有事です。昨年12月、中国の習近平主席は演説で『祖国統一は歴史の必然だ』と国民に訴え、改めて台湾統一の必要性を説いた。対する台湾は今年1月の総統選で中国と対立姿勢を取る民進党の頼清徳氏が辛くも当選。頼氏は5月の就任演説で『台湾に対する政治的・軍事的威嚇をやめる』ように訴え、中国共産党が掲げる『1つの中国』に否定的な立場を示しました」

■現実味を帯びる有事

（略）

■歴史に翻弄された島

「計画プラン」の1ページ。島の歴史がまとめられている

「防衛省の中でも台湾が落ちれば次は日本という意識は根強い。そこで防衛の前線として浮上したのが馬毛島でした。島の整備が終わり次第、通称FCIPと呼ばれる米軍の訓練場として使用される予定となっています」

地上では固有種のマゲシカや国の天然記念物にも指定されているオカヤドカリが暮らし、周辺の海では多くのサンゴ礁が集まることで知られる馬毛島。そんな豊かな自然を誇る一方、今回の基地化に限らず、戦争に翻弄された歴史を持つ。

「元々、種子島家の領土だった馬毛島でしたが、第二次世界大戦下の1941年には日本海軍が防空監視所を設置。真珠湾攻撃から1週間後にはトーチカが作られ、軍による爆弾投下訓練が行われていたとの史実があります。それゆえ終戦時には完全に無人化。その後は幾度もの入植により昭和34年には500名以上の島民が暮らすようになりましたが、これが人口のピークでした」(地元紙記者)

関係者から入手した事業計画プランでは島の歴史について「農地としての地質の不適合と高度成長下で都会へ出稼ぎのために離島する者が続出し、昭和53年に全世帯転出して無人島となった」と記載されている。

95年にはタストンの前社長であり、21年に亡くなった立石勲氏(享年88)が島を購入。以降20年以上もの月日をかけて自前で滑走路を建設。その開発費用は150億円以上にのぼるとみられている。

防衛省関係者によれば自主工事と並行して立石氏が行ったのが政府への売り込みだった。

■「不沈空母の馬毛島を」

「無人島であるゆえ、他の基地で指摘されているような騒音問題や安全面の心配も少ない。立石氏はこれらの条件を利点にし、政府に要塞として馬毛島を売り込んだ経緯があります。立石氏としても大金をはたいて整備をした島。いわば人生をかけた大勝負に打って出たわけですから、とにかく高値であの土地を売りたがっていた」

関係者いわく立石氏の願いは民主党政権時代であった2010年に動きを見せたという。

「立石氏本人の話では民主党政権と立石の間で賃借の取り決めがなされていたそうです。賃料は年に55億円。しかし、政権交代によって合意も反故にされた。困った立石氏は13年に当時の安倍晋三総理に再度、島の購入をお願いする陳情書を提出しています」

当時の説明では

「中国軍の東シナ海進出に対するため不沈空母の馬毛島を造成してください」「軍艦、飛行機は一発の砲弾で被害が生じますが土の基地は一夜で修復が可能で不沈空母です」

(いずれも原文ママ)と軍事拠点としての馬毛島の利用価値を強調。さらにそこで登場するのが「幻の計画書」だ。タストンは中国の脅威を念頭に国に購入を迫るように冒頭の内部資料を作成。政府へのプレゼンに奔走したのである。

つづく後編記事『菅さんも「日米関係で久々のヒットだ」と前のめりに…軍事要塞と化した馬毛島《幻の計画書》の全貌』では計画書に映し出された軍事要塞と化した馬毛島の全貌とタストンがひそかに取得していた「宅配ミサイル」なる兵器ビジネスについて詳しく報じる。

週刊現代　2024.07.06
https://gendai.media/articles/-/131602