【中華民国台湾化】 「台湾有事」はすでに始まっている！　「複雑で濃密な歴史」が緊張関係を生んだ。

ー前略ー
・「高砂族」や「外省人」は台湾人ではない？

ー中略ー
　台湾の人たちが最初に「自分たちは台湾人である」と言い出したのは、日本統治時代の1920年代のことでした。
当時、日本の総統府は台湾の漢族系住民を「本島人」と呼び、日本本国の「内地人」に対して「二等臣民」に位置付けていたのですが、
それに対する抵抗や文化運動として「台湾人」のアイデンティティが生まれました。しかしこの時、
「平埔(へいほ)族」「高砂(たかさご)族」などと呼ばれた原住民は「蕃人」という位置づけで、
「本島人」にも「台湾人」にも含まれていません。

　戦後は、戦前から台湾に住んでいた漢族の人々を「本省人」、戦後に中国大陸から移住した人々を「外省人」と呼ぶようになりますが、
当初は「台湾人」という時には外省人は含んでいなかったようです。
むしろ本省人に原住民を加えて台湾人とイメージしたんじゃないでしょうか。

　それが民主化の時代になると、台湾人というのは、大多数は本省人だけれども、原理として外省人も排除しない論理になってきたし、
しだいに実際にもそうなってきたと思います。外省人でも若い世代は自分を中国人だと思わないでしょうし。

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〈「台湾人として胸を張ろう(台湾人要出頭天)」とは、80年代の民主化要求の集会やデモで頻繁に叫ばれたスローガンの一つである。
「台湾語」(福佬語)で叫ばれたこのフレーズは、台湾の民主化運動が、蔣経国の慎重な政権人事の「台湾化」政策にもかかわらず、
それに満足できない本省人のエスニックな反発を動員して展開していったことの証左であるが、
それを推進する社会的主体は70年代にはすでに台湾社会にその姿を現していたのであった。〉(『台湾の歴史』p.124)

・「この島を故郷と思う者は、みんな台湾人だ」
　――本省人、外省人に、原住民、客家…といった言葉が、台湾の歴史のわかりにくいところですね。

　若林　台湾ではそこで、民族とか人種とは全く違う概念で、「族群」という言葉が使われています。

　「族群」とは、台湾の民主化の過程で台湾の社会学者が発明した言葉で、
最初は「エスニックグループ(=多民族国家の中の少数民族集団)」という語を、族群と訳したようです。
それが台湾の中国語の文脈のなかで、エスニックグループとはちょっと違う、もっと豊富な意味を含んで、土着化したのです。

　たとえば、漢族と原住民族は、はっきり民族が違うと言えるけれど、本省人と外省人はそうは言えない。
もとは漢族ですが、島に来た時代が違うだけです。
広東省あたりから来た漢族の「客家(ハッカ)」と、福建省南部出身の「福佬(ふくろう)人」も、「民族が違う」とまでは言えないけれど、
でも当人たちの意識としては違う。そもそも客家語と福佬語では、会話も通じないわけです。
そういう次元の違う集団を表す言葉を一緒くたに入れ込んで、台湾の文化的な様相を表す言葉として
「族群」という言葉が使われてきたのです。

　こういう次元の違う集団が、さまざまな力学によって動いてきたというのが、私のイメージする台湾社会で、
これを私は「多重族群社会」という言葉で説明してきました。

　しかし、先ほど述べたように、台湾人のアイデンティティは変容しており、2014年に起きたヒマワリ運動のころから、
若い世代には「族群」なんて関係ないという傾向がはっきりしてきたのです。
これからは、族群の問題や、本省人・外省人という見方を前面に出して議論するのは、無理でしょうね。

　総統として民主化をリードした李登輝氏(1923-2020)が、「台湾に住んで、この島を故郷を思う者はみんな台湾人だ。
この島にいつやってきたか、なんていうのは関係ないんだ」と語った言葉が、現実になりつつあるのでしょう。

若林 正丈（東京大学名誉教授　早稲田大学名誉教授）

全文はソースから
現代ビジネス　12/11(月) 7:03配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/99ce8ea769650f56afb7efa6e9224590f4e07300